判断能力の低下に備える際、成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」で手続きの入口と進み方が異なる。
本記事は、両者の全体手順を同一の地図として整理し、どこで分岐するかを明確にする。
目次
対象と前提
- 対象は、成年後見制度の利用を検討している本人・家族・支援者(MSW等)である。
- ここでいう「手続き」は、家庭裁判所の関与の有無、必要書類、開始までの流れを指す。
- 任意後見は「契約で準備する制度」だが、効力発生には家庭裁判所の関与(任意後見監督人選任)が必要となる。
- 法定後見は「判断能力低下後の保護制度」であり、開始は家庭裁判所の審判による。
- 後見類型(後見・保佐・補助)や必要書類の細部は、裁判所運用・個別事情で変動し得るため、ここでは標準的な全体像に限定する。
結論
- 進め方の起点は「本人の判断能力が契約に足りるか」である。
- 判断能力が十分にある間は、任意後見(+必要に応じて財産管理等委任等)で事前設計し、将来の発動局面で裁判所手続きに接続する。
- すでに判断能力が不十分であれば、法定後見の申立てにより裁判所の審判で開始する。
- いずれも、開始後は「裁判所の監督の下で、権限に応じて財産管理・身上保護を行う」という運用に移行する。
理由(法の論理)
- 成年後見制度は、判断能力が不十分な成年を保護するために、財産管理と身上保護の枠組みを用意している。
- 本人の自己決定を尊重する観点から、判断能力がある段階では「契約(任意後見)」で将来の支援者と内容を設計できる構造が用意されている。
- 一方で、判断能力が不十分となった後は、契約による新規設計が困難となるため、家庭裁判所の審判により開始する「法定後見」がセーフティネットとして位置づけられている。
- 任意後見が「契約だけで即時に代理権が発生しない」のは、発動段階で本人の判断能力低下を客観化し、監督人を置くことで濫用を抑止する制度設計による。
手順/フロー
- 分岐点の確認(判断能力と緊急度)
- 現在、本人が契約内容を理解し、任意後見契約等を自ら締結できる状態かを整理する。
- 直近で必要な法律行為(預貯金の払戻し、不動産処分、施設入所契約等)があり、本人単独では遂行困難かを整理する。
- 支援の担い手(親族・支援者)の有無、申立てを誰が担えるかを整理する。
- 任意後見の手続き(判断能力がある間の事前設計)
- 設計:後見受任者(頼む相手)と委任事項(財産管理・身上保護の範囲)を設計する。
- 契約:任意後見契約を公正証書で締結する(契約段階では直ちに任意後見は開始しない)。
- 発動準備:判断能力低下が疑われ、任意後見を開始すべき局面になったら、家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申立てを行う。
- 発動:任意後見監督人が選任されると、任意後見が開始し、受任者が任意後見人として事務を行う。
- 運用:任意後見監督人の監督下で、契約で定めた範囲の財産管理・身上保護を遂行する。
- 法定後見の手続き(判断能力低下後の開始)
- 申立て準備:申立権者(親族等)を確認し、申立書類一式を準備する。親族がいない・機能しない場合は、市区町村長申立ての可能性を含め、行政接続(地域包括支援センター等)を検討する。
- 申立て:家庭裁判所へ後見開始等の申立てを行う。
- 審理:裁判所が本人の判断能力、必要性、候補者の適否等を審査する(医師の診断書等を前提に運用される)。
- 類型決定:後見・保佐・補助のいずれかが選択され、後見人等が選任される。
- 運用:選任後は、権限の範囲で財産管理・身上保護を行い、裁判所の監督下で報告等を行う。
まとめ(要点)
- 分岐の基準は「今、契約ができる判断能力があるか」である。
- 任意後見は「契約→将来、監督人選任で発動」という二段階で進む。
- 法定後見は「申立て→審判→選任→運用」という裁判所主導の手続きで進む。
- 親族不在・疎遠の場合は、申立ての担い手確保(市区町村長申立て等)が手続き上の重要論点となる。