判断能力がある間に整えておく手続きと書類は、将来「契約できない」「解約できない」「申立てできない」を防ぐための土台である。
法制度上は、①契約で先に権限を作る領域、②行政・福祉サービスで生活を支える領域、③判断能力低下後に裁判所手続へ接続する領域に分かれる。
ここでは、認知症初期の典型シーンで実務上よく使う手続きと書類を一覧化する。
目次
対象と前提
- 対象は、認知症が疑われる/軽度の段階で、本人が契約内容を理解し意思表示できる可能性が残る成年である。
- 目的は「将来の法的手続の停滞」を避けることであり、医療・介護の支援と財産・契約の支援を分けて設計する。
- 成年後見(とくに任意後見)は契約であるため、締結できる時期が事実上の期限になる。
結論
認知症初期の準備で実務上使う手続きは、次の3群に整理できる。
- 契約で権限を作る:任意後見、財産管理等委任、死後事務委任、見守り等の各契約、公正証書の作成
- 行政・福祉で生活を支える:介護保険申請、地域包括支援センター相談、日常生活自立支援事業等
- 低下後に裁判所へ接続する:法定後見の申立て準備(診断書、事情説明、財産資料の整備)
理由(法の論理)
- 法体系上、本人の法律行為は本人の意思能力を前提に成立するため、意思能力が残る間は「契約」により代理・補助の枠組みを先に作れる。
- 判断能力が不十分になった後は、本人の契約で権限を新設することが困難となり、家庭裁判所の審判により保護枠を設定する法定後見が中心になる。
- 生活支援(見守り・福祉サービス)は事実行為の領域であり、財産処分や契約締結などの法律行為の代理権とは別レイヤーであるため、書類も分離して整える必要がある。
手順/フロー
- 生活・契約・財産を「止まる点」で棚卸する
- 生活:入院手続、施設入所、介護サービス契約、緊急連絡先
- 契約:定期預金解約、不動産売却、賃貸更新、スマホ・サブスク解約
- 財産:口座・証券・保険・不動産・負債の所在
この棚卸で、どの手続き群(契約/福祉/裁判所)を優先するかが決まる。
- 判断能力がある間に「契約で作れる権限」を先に作る
主な手続きと書類は次のとおり。
- 任意後見契約(公正証書)
- 本人確認資料(運転免許証等)、印鑑、戸籍事項確認資料(必要に応じて)
- 代理権目録(どこまで任せるかの一覧)
- 財産管理等委任契約(任意後見とは別枠で運用することが多い)
- 委任事項リスト(支払・解約・各種手続の範囲)
- 見守り契約・定期連絡の合意(法的代理権は持たない前提で設計)
- 連絡手段、頻度、緊急時の連絡先一覧
- 死後事務委任契約(後見の終了=死亡後の空白を埋めるため)
- 葬儀・納骨・遺品整理・公共料金停止等の委任事項リスト
- 遺言(相続・死後の意思表示の固定)
- 公正証書遺言を選ぶ場合は本人確認資料・印鑑等
※信託は「財産管理・承継」に強いが、身上保護の代理権とは別制度であるため、目的が合う場合に限定して検討する。
- 公正証書遺言を選ぶ場合は本人確認資料・印鑑等
- 低下後に備えて「法定後見の申立て資料」を整備しておく
申立て局面で止まりやすい資料を先に揃える。
- 身分関係資料:本人の戸籍・住民票等(取得範囲は目的で変動)
- 医療資料:診断書(家庭裁判所所定様式が使われることがある)
- 財産資料:預貯金残高、通帳コピー、年金通知、保険、固定資産税通知書、不動産登記事項、負債資料
- 生活状況資料:介護認定、サービス利用状況、施設候補・入院状況、支援者の有無
親族が申立てできない場合を想定するなら、地域包括支援センター等の相談記録・連絡先も整理しておく。
まとめ(要点)
- 認知症初期の準備は「契約で権限を作る」「福祉で生活を支える」「裁判所手続に備える」の三群で整理すると漏れにくい。
- 任意後見・委任・死後事務・見守りは、判断能力がある間にしか設計できない項目が中心である。
- 法定後見に進む場合に備え、診断書・財産資料・生活状況資料を先に揃えると、申立て局面で止まりにくい。