判断能力が十分にある間に「契約で何を決めておくべきか」を整理しておくと、将来の手続き停止(口座・施設契約・支払い等)を回避しやすくなる。
成年後見だけに備えを寄せるのではなく、平時に使える契約と、判断能力低下後に効く制度を分けて設計することが重要である。
目次
対象と前提
- 対象は、将来の判断能力低下に備えたい本人(認知症・精神障害等の可能性を含む)である。
- 判断能力がある間に締結できる契約は、判断能力が低下すると新規締結が困難または不能になる。
- 生活の継続に必要な論点は「お金」「支払い・手続き」「緊急時の接続」「死後」に分解できる。これらを誰が担うかを、契約と文書で先に確定させる。
結論
判断能力がある間に整えるべき契約・文書は、次の5領域である。
- 財産管理等委任(平時の支払い・手続きの代行)
- 任意後見(判断能力低下後の法的代理の予約)
- 見守り・連絡(異変検知と支援への接続)
- 医療・介護に関する意思の整理(希望と連絡先の文書化)
- 死後事務・承継(死後の空白の補完)
各領域は役割と発動時期が異なるため、単独では完結しない。最小構成から順に積み上げて設計する。
理由(法の論理)
- 私法上の契約(委任等)は、本人が契約内容を理解し意思決定できることが前提である。判断能力が低下すると、有効性や運用が不安定になりやすい。
- 法定後見は判断能力低下後の保護制度であるが、開始には家庭裁判所手続きが必要であり、日常の支払い・手続き停止を即時に埋める仕組みではない。
- 任意後見は契約で設計できるが、効力発生は監督人選任後であり、平時の支払い・手続きは別の契約で埋める必要がある。
- 後見等の権限は本人死亡で終了するため、死後の事務は後見の射程外である。死後事務委任や遺言等で別枠の設計が必要となる。
手順/フロー
- 生活と財産の「止まり所」を棚卸しする
- 口座(入出金・引落し)、住居(賃貸・修繕)、医療(入院手続き・支払)、介護(契約・支払)、各種契約(携帯・保険・サブスク等)を列挙する。
- 「本人が動けない/判断できない」状態になったとき、誰が何を止めずに回す必要があるかを整理する。
- 「平時に動く契約」と「将来に効く制度」を切り分ける
- 平時の支払い・手続き:財産管理等委任(必要に応じて見守り・連絡をセット化)
- 判断能力低下後の法的代理:任意後見(間に合わない場合は法定後見)
- 死後:死後事務委任・遺言等(後見とは別枠)
- 5領域を最小構成から整備する
- 財産管理等委任:対象行為(支払い・解約・届出等)、管理方法(通帳・カード・印鑑等)、報告方法(頻度・形式)を確定する。
- 任意後見:受任者、任せる範囲(財産管理・身上保護の範囲)、発動条件を設計し、公正証書で契約する。
- 見守り・連絡:連絡手段、頻度、異変時の接続先(誰に・どこへ繋ぐか)を確定する。
- 医療・介護の意思の整理:治療・入院・施設選択の希望、連絡してよい相手、緊急時の優先順位を文書化する。
- 死後事務・承継:死後事務(葬儀・納骨・遺品・支払い・連絡)と承継(遺言等)を分けて設計する。
まとめ(要点)
- 中核は「財産管理等委任(平時)」と「任意後見(将来)」である。
- 見守りは代理権を持たないが、異変検知と支援への接続により制度の空白を埋める。
- 後見は死亡で終了するため、死後は死後事務委任・遺言等で別枠に設計する。
- 目的は制度理解ではなく、支払い・契約・連絡が止まる場面を先に塞ぐことである。